高性能ではあったが2基のエンジンをひとつのナセルに収めて空気抵抗を減らす野心的なアイデアが失敗してエンジン加熱トラブルが続発し、搭乗員からは敵よりこの飛行機のほうが危険だと陰口をたたかれたハインケルHe177の問題解決のもっとも簡単な方法は通常の4発機とすることであった。 現にハインケル社は1940年にこの案をドイツ軍当局に提案していた。 しかし当局は当時He177の一号機のテストを始めたばかりで、それから起こるトラブルの重大性を予測しえなかった。 しかも通常の4発エンジン構造にすると空気抵抗が増え性能が落ちることは明らかであったのでこれを嫌ったのである。
1941年秋までにはエンジン加熱により発生する火災が深刻な問題になり、とうてい現状の方向で克服できそうにないことが明白になってきていたが、ドイツ空軍技術当局はHe177をベースにして与圧キャビンを備えた高高度爆撃機He274の開発を要求しており、方針を変えようとはしなかった。 ハインケル社社長のハインケル博士がHe177をあきらめて常識的な4基の独立したエンジン搭載型He277の開発をなんども当局に申し入れしたが、空軍の最高司令官のゲーリングはとうとう怒りだし今後いっさいHe277のことを口にするなと言明した。
しかしハインケルはこっそりHe177Bという名称で開発を続け、これは誰も知りながら知らん顔をする秘密であった。 1943年5月にようやく正式に承認されたのであったがヒットラーの要求はイギリス戦闘機が上がってこられない高高度爆撃ができることとアメリカからくる輸送船団を洋上はるかのところで爆撃できる航続距離を持つことであった。 ハインケルはこれを受け入れここに晴れて開発が進むことになったのである。 しかしゲーリングは依然として反対し続けたため開発はHe177Bとして公式には秘密のうちに行われた。 He177Bの胴体をはじめ多くの部分はHe177のものが流用された。 ダイムラーベンツ 12気筒液冷エンジン4基が搭載され空気取り入れ口は丸い筒形の形状になったので見かけは空冷エンジンのように見える。 初飛行は1943年末である。 防御火器は機首と尾部にそれぞれにリモートコントロールの4挺の7.9mm機関銃、さらに機首に1挺の7.9mm機関銃、胴体前部に2連装の13mm機関銃、後部に1挺の13mm機関銃であった。
1944年5月に至ってゲーリングは突然爆撃機はわが空軍の中核であるとして月産200機のHe277の生産を命じたのである。 当時ドイツは連日連夜連合軍の猛爆撃にさらされており、ゲーリングの要求は非現実的なものであった。 その2か月後生産の重点は迎撃戦闘機に置かれ、爆撃機の開発はストップされた。 He277は結局8機だけが完成した。
形式: 4発大型爆撃機 エンジン: ユンカース.ユモ213F 液冷12気筒 2,060馬力 武装:20mm MG151リモートコントロール銃座機関砲6門、13mmMG 15旋回式機関銃4挺、爆弾500kg 最大速度:557km/時(高度 5,395m) 巡航速度 448km/時 上昇限度:13,400m 航続距離:7,160km 自重:22,420kg 全備重量:44,440kg 全幅:40.00m 全長:21.31m 生産台数: 8
William Green “War Planes of the Second World War Vol.9” MacDnald, London 1970