メッサーシュミットMe１６３コメットは第二次大戦で使われた唯一のロケット推進戦闘機である。　開発責任者はアレクサンダー．リピッシュ博士。　原型はDFS１９４としてドイツ空力研究所のプロジェクトで１９３８年に設計が始められた。　翌年開発チームはリーダーのリピッシュ博士を含めて引き抜かれ、メッサーシュミット社で作業を継続することになった。　試作機はMe163という型式名を与えられた。　２機の試作機は１９４１年春に完成したが最初の飛行はロケットエンジンなしの滑空テストであった。　最初のロケット推進機の飛行はその年の８月。　４回目の飛行で時速912kmを記録した。　つづいて１０月、高度4,000mまで牽引されたあとロケット推進に移り時速998kmを達成した。　Me163は研究用に過ぎないと思っていたドイツ空軍首脳部もこのころには迎撃戦闘機として使える可能性を検討し始めていた。 １９４４年６月、世界で初めてのロケット戦闘機部隊が編成され、その年の７月ライプニッツ近くで初めてアメリカのB-17爆撃隊と対決した。　爆撃隊を護衛していたP51戦闘機隊隊長のウイリアム．ケプナーが詳細なレポートを作成している。　この時はあまりにもスピードが違いすぎて双方とも射撃する機会はなかったようである。　翌日再び遭遇したP-38戦闘機パイロットジェフリー大尉がドイツのロケット戦闘機を撃墜したとの報告がされたがドイツ側の記録には残されていない。 　８月終わりには二つ目のMe163戦闘機隊が編成され、ブランデイス基地に配属された。　このころにはアメリカ空軍もMe163の航続距離が極端に短いことを見てとっていたので爆撃隊の進路がブランデイスには近寄らないような配慮をした。　初期の対戦でアメリカの爆撃隊に後方から接近してもスピード差が秒速150mにもなりMe163搭載の発射速度の遅い30mmMK108機関砲の射程距離から計算するとほとんど発射する時間がないことが分かった。　主翼に上方に向かって特殊なロケット弾を発射する装置を備え、目標の下を全速力で通り抜け、敵影を監視する装置によって自動的に発射することが検討された。　実験的に行ってみたところB17の１機を撃墜できた。　この方法だと未熟なパイロットでも成果をあげる可能性があるとして１２機がこの目的で改造されたが実戦に使われるまでにはいたらなかった。 　Me163はB-17部隊に対しては相当な脅威を与えはしたものの、上空に到達までにほとんどの燃料を使ってしまい、空戦はわずか２分くらいしかできないうえ、本質的に不安定な飛行機でありパイロットにとってはおそろしく危険な乗り物であった。　残されている映像を見ても飛び上がり、無事着陸するだけでもよほど幸運に恵まれなくてはできないようなしろものであった。　とくに離着陸時の燃料爆発事故は数知れないほどあった。 　１９４４年、日本の陸海軍が本機の製造ライセンスを取得し、Me163の機体、ロケットエンジン取り扱いマニュアルなどを１隻のUボートで輸送しようとしたが途中で撃沈されてしまった。