1930年代半ばに始まった日本陸軍の近代化計画は1938年8月、欧米の最新機とくらべても遜色のない爆撃機キ-21が配備されたときに絶頂期に達した。 1941年12月以降東南アジア方面の爆撃任務には本機の姿があった。 英米の戦闘機の前には旧式化が覆いがたかったが終戦まで使われたのである。 キ-21は従来の93式重爆を置きかえるべく1936年2月に出された航空本部仕様に基づき設計された。 全金属製、中翼型で流麗な曲線を持っていた。 主脚は前方に引き込まれるようになっていた。 試作第一号機の初飛行は1936年12月である。 角型の機首を持ち胴体後方上部と胴体下部にそれぞれ銃座を備えていた。 2号機からは胴体後部に銃手を収容するための長い風防が設けられ、機首はスムーズな曲面になった。 当初は三菱で社内テストが行われていたが、1937年3月、海軍の手によって中島飛行機のキ-19との比較テストが始められた。 もうひとつの競合相手である川崎キ-22は設計段階で脱落している。 キ-21は一般的な性能では中島キー19より優れていたが、海軍は信頼性の高い中島ハー5エンジンを搭載することと縦方向の安定性の改良を命じた。 この改良でキー21は完全に優位に立ち陸軍97式重爆として採用されたのである。 生産は1938年春から始まったが中島飛行機にも本機の生産の指示が出された。 最初の量産型は97式重爆撃機として中国北部と満州方面に配備され弱体の中国空軍相手に好成績をおさめたが、将来の強敵に備えるべく日本陸軍はもっと速度と上昇限度の向上を要求した。 これに対して三菱は大型の三菱ハ-101エンジン(1,500馬力)の搭載を計画、エンジンナセルを大型化し同時に主脚が完全に引き込まれるようにした。 このキ-21II型の飛行テストは1940年3月から始まり、97重爆II型としてその年の12月から配備が始まり、太平洋戦争が開始された時点ではほとんどの部隊がII型に入れ替えられていた。 戦争開始直後は連合軍も旧式機しか持っておらずキー21は日本陸軍の主力爆撃機としてマレー、シンガポール方面で大活躍したが、英米がハリケーン、カーチスP-40などを投入してくるにしたがい損害が急増する結果となった。 連合軍のコードネームは最初マッカーサー将軍の奥さんの名前をとってジェ-ンとつけられたが、マッカーサーがこのアイデアに気に入らなかったのですぐにサリーに替えられた。 1943年にいたっても97式重爆は陸軍の主力爆撃機として配備される数は新型のキー49の倍もあった。 しかし基本的な弱点である防御火力の弱さ、セルフシーリング燃料タンクの欠如などで敵戦闘機の攻撃に対して弱く損害は甚大であった。 その後ようやく新型機に置き換えが行われ、終戦の時点ではひとつの戦隊だけがキー21を爆撃機として使っていたほかは後方任務についていた。 キー21は日本陸軍機を世界と同等レベルに引き上げた功績機であったが、後継機種の開発が遅れ能力以上に長期間使用されたのが不運であった。 戦争後半になっても前線の搭乗員は新型の中島キー49呑龍爆撃機よりもキー21を好んだといわれている。
形式: 重爆撃機 エンジン:三菱ハー101 空冷1,500馬力2基 最大速度:486km/時(高度 4,720m) 巡航速度 380km/時 航続距離:2,700km 上昇時間:13分13秒(6,000mまで) 上昇限度:10,000m 自重:6,070kg 全備重量:10,610kg 全幅:22.50m 全長:16.00m 武装:12.7mm旋回式機関銃1挺、7.7mm 旋回式機関銃5挺、爆弾1,000kg 生産台数:2,064
Elke C. Weal “Combat Aircraft of World War Two”, Arms and Armour Press, London 1977
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“安藤成雄 “日本陸軍機の計画物語” 航空ジャーナル 1980別冊
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Rene J Francillon “Japanese Aircraft of the Pacific War” Putnam Aeronautical Books 1988
Robert C. Mikesh “Japanese Aircraft 1910-1941” Putnam Aeronautical Books 1990
航空情報編 「日本軍用機の全貌」
岡村純他「航空技術の全貌」原書房