三菱 九六式艦上戦闘機(A5M4) 

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モデルは WINGS製 1/72
バキュームフォームキット

 昭和8年(1933)アメリカから購入したノースロップ.ガンマに採用されているさまざまな新技術は日本海軍の航空技術者を唖然たらしめるものがあった。 海軍航空工廠の責任者、前原謙治少将は横に並んでいる国産の機体とくらべ彼我の技術力のあまりの差にショックを受け、「こりゃ、いかんわい」と一言つぶやいたきり黙り込んでしまったという。 それから2年後、堀越二郎が設計した九六式艦戦がその全金属製、低翼単葉の近代的でスマートな姿を現したとき、先の前原少将は日本にもついに世界を凌駕する戦闘機ができたと涙をながさんばかりに喜んだという。 昭和9年(1934)に出された海軍の要求に応じて三菱の堀越二郎を設計主務者として開発した九試単戦(昭和9年試作の単座戦闘機)がこの九六式艦上戦闘機になった。  設計開始からわずかに10ヶ月で第一号機が完成、翌年2月に行われた初飛行では、海軍の要求仕様の最高時速342km/時に対して実に100kmも速い440km/時を記録し、関係者を狂喜させた。 購入していたフランス製のドボアチン510、イギリスのホーカー.二ムロッド戦闘機と比べても問題にならないくらい高性能であったので、当時進めていた海外の最新機の購入計画をごく一部を除きすべてキャンセルしてしまったほどである。 これは本機の性能がいかに優れていたかを示していると同時に、自信がすぐに思い上がりにつながる日本人の特性をも表わしている。 確かに機体の設計では世界最高水準まで到達したが、底辺を支える技術であるエンジン、プロペラ、機関銃や各種艤装品ではかなりの遅れをとっていたのに、外国製をみくびる風潮が広がり、謙虚に学び取ろうとする姿勢を失ってしまったのである。 結局この後、終戦まで総合的な技術力ではむしろ欧米との差は開いていったといえるのである。 また九六式艦戦の初飛行とほぼ同時期にドイツではメッサーシュミット BF-109が初飛行しているし、半年後にはイギリスのハリケーン戦闘機が飛んでいる。 世界はすでに高速、重武装の重戦闘機の時代に突入しつつあったのである。 それはともかく九六式艦戦の成功はいままでの外国の模倣から脱却し、日本人独自の手で世界に誇れる戦闘機を作り出したという点で画期的なできごとであった。 それ以降日本の航空は自立の時代にはいったのである。 設計者の堀越二郎は後年の零戦よりもこの九六式艦戦のほうに大きな意味付けを行っている。 生産は昭和12年(1937)当初から始まった。 おりしも始まっていた支那事変ではアメリカ製のカーチス.ホーク、ソ連製のI-15,I-16を中心とする中国戦闘機隊の前に日本軍は苦戦を強いられていたが、9月に入り九六式艦戦を前線に投入するやたちまち敵戦闘機を蹴散らし、圧倒的な制空権を獲得した。 生産は昭和15年まで続けられ、その年零戦の登場に伴い徐々に第一線から退いていったが、太平洋戦争が始まった当時はまだ龍譲など数隻の補助空母と搭載されていたほか、本土防衛や訓練用として多数が就役していた。 そして最後は特攻機としても使われている。 連合軍のコードネームはクロードである。

 
性能諸元(A5M4)

形式: 艦上戦闘機   エンジン:中島 寿41空冷 785馬力   武装:7.7mm 機関銃2挺、爆弾60kg   最大速度:434km/時(高度3,000m)  上昇時間:3分35秒(3,000mまで)   上昇限度:9,800m   航続距離:1,200km   自重:1,216kg   全備重量:1,671kg   全幅:11.0m   全長:7.56m   生産台数:1.094

参考文献

Elke C. Weal “Combat Aircraft of World War Two”, Arms and Armour Press, London 1977
Bernard Fitzsimons ed. “The Illustrated Encyclopedia of 20th Century-Weapons and Warfare” Vol.21
Ed.: David Donald “Encyclopedia of World Aircraft” Prospero Books 1999
Military Aviation Library,“World War 2 Japanese and Italian Aircraft”, Salamander Books Ltd., 1985
Christy Campbell “Air War Pacific”, The Hamlyn Publishing Group Ltd., 1991
佐貫亦男監修“第二次大戦機”徳間書店、1988
Rene J Francillon “Japanese Aircraft of the Pacific War” Putnam Aeronautical Books 1988
Robert C. Mikesh “Japanese Aircraft 1910-1941” Putnam Aeronautical Books 1990
Ray Wagner “The Air War in China 1937-1941” San Diego Aerospace Museum, 1991
Robert C. Mikesh “Broken Wings of the SAMURAI” Naval Institute Press, Annapolis, Maryland
堀越二郎、奥宮正武 “零戦” 朝日ソノラマ
岡村 純他“航空技術の全貌” 原書房
野沢 正 “Encyclopedia of Japanese Aircraft” 共同出版