世界で初めて前輪式の降着装置を持ち、またエンジンを操縦席の後に搭載、長いシャフトを通じてプロペラを駆動するというきわめて斬新な設計の戦闘機である。 それだけにアメリカの戦闘機の歴史の中でももっとも議論の多い飛行機であった。
1930年代なかば、アメリカ陸軍の主力はボーイングP-26で、その速度は最新の民間旅客機より遅いといった状況であった。 1936年、陸軍は数社にたいし、新型戦闘機の開発を要請した。 これに応じたうちのひとつが新しく誕生したベル社であった。 陸軍の要求仕様はおおまかなものであったので最大限の設計自由度があった。 当時戦闘機の武装といえば第一次大戦からの7.7mm機関銃かせいぜい12.7mm機関銃がふつうであったが、チーフエンジニアであったロバート.ウッドは開発されたばかりの37mm機関砲に魅せられこれを搭載することに決定した。 極端ないいかたをすれば、P-39は37mm機関砲を搭載するべく設計された戦闘機である。 巨大な37mm機関砲は機首に搭載し、プロペラ軸の中心から撃ち出すしかないので、エンジンを操縦席の後に配置し、長いシャフトを通じてプロペラを駆動するというユニークな構造となった。 結果として操縦席が通常より前になって視界がよくなり、重いエンジンを機体の重力中心付近に配置することになったので操縦安定性が向上した。
登場したときは当時のもっとも斬新な設計であるとの評価であったが、その性能は期待にそむくものであった。 迎撃戦闘機として設計されたものであるが、結果はヨーロッパでも太平洋戦線でも敵戦闘機には対抗できないことが明らかになったのである。 最大の問題は搭載していたエンジンで、とくにその高空性能が悪く戦闘機としての価値を失わせる元凶であった。 当時アメリカを攻撃してくる飛行機の可能性はほとんどないと考えられ、戦闘機の任務は沿岸防備と地上軍支援であると考えられていたため、高空性能は問題とされていなかったためである。 また当時のアメリカ陸軍の思想として飛行機は地上部隊の支援であると考えられていたので大きな航続距離を要求していなかった。 そのためわずか一時間の航続距離しかなく、現実の長大な戦線に対応しきれなかったのである。
迎撃戦闘機としては落第であったが、優れた低空性能と搭載していた37mm機関砲が地上攻撃には威力を発揮し、合計9558機作られたうちほぼ半数の4773機がソ連に送られ大活躍をしたのである。
初飛行は1939年4月、排気タービンつきのアリソンエンジンを搭載、高度6000mで624km/時の高速を記録した。 しかしアメリカ陸軍は排気タービンを搭載しないことを要求し、これがP-39の性能を低下させる最大の原因となった。 それでも1939年8月には80機の発注があり、P-39Cとして翌年一月から引渡しが始まった。 つぎの改良型P-39Dはさんざんな失敗であった。 イギリス空軍は675機を発注したが、数日テストしただけで、ドイツ戦闘機と戦うのは自殺行為であるとの結論を下し、200機ばかりはソ連に回され残りはアメリカに返却してしまった。 いっぽうアメリカが参戦した時点では陸軍の使える戦闘機はカーチスP-40とならんでP-39しかなかったので、これらがとりあえず前面の敵に立ち向かうしかなかったのである。
形式: 単座戦闘機 エンジン:アリソン V-1710-35 液冷12気筒 1,150馬力 最大速度:539km/時(高度 1,524m) 航続距離:965km 上昇時間:1分54秒(1,524mまで) 上昇限度:8,840m 自重:2,478kg 全備重量:3,558kg 全幅:10.36m 全長:9.19m 武装:37mm機関砲1門、12.7mm機関銃2挺、7.7mm機関銃2挺、爆弾227kg 生産台数:9,558
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