フィッシャー XP-75 

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モデルは RARE PLANE製 1/72
バキュームフォームキット

フィッシャーXP-75はおそらく第二次世界大戦で開発された戦闘機のなかでももっとも特異なもののひとつであろう。 とはいっても機体そのものではない。 特異なのはその開発経緯である。  1942年、超大型爆撃機ボーイングB-29の開発が進み大量生産の準備を行おうとしている段階であった。 B-29はいままでにない大きさと最高水準の新技術を盛り込んだ複雑な航空機であり、ボーイング社の工場だけではとても要求される量の生産ができないことは明らかであった。 アメリカ陸軍航空本部は血眼になって他の生産拠点を探し求めていた。 ベル、マーチンの各社はすでにB-29の生産に合意しフォードはすでにB-24爆撃機の生産で手いっぱいであった。 当時GM(ゼネラルモーターズ)は世界最大のメーカーでありアメリカ陸軍が目を付けたのは当然であったが、GMはすでに戦車をはじめ多くの戦争車両の生産に従事しており、B-29の生産まで引き受けるのを嫌ったのである。 しかし戦争状態であり軍の要求をむげにはねつけるわけにも行かず、GMは代案としてB-29爆撃隊を援護できる高性能の長距離戦闘機の開発を提案したのである。 この経緯についてははっきりしないが、とにかく陸軍はこの代案を承認した。 GMの提案した戦闘機はGMの系列会社であったアリソン社の大馬力新型エンジン V-3420-19を搭載する計画であった。 このV-3420と称するエンジンは従来からあるV-1710を2基を並列にならべただけのものであった。 型式名をV-1710から数字を2倍にしただけということからしてふざけている。 エンジンを操縦席の後方の胴体に置き、長い延長シャフトで機首の二重回転プロペラを駆動するアイデアであった。 開発はGMのボデイ製造部門であるフィッシャー社が担当したがフィッシャーは飛行機の開発はまったくの未経験であった。 時間を節約するために主翼はカーチスP-40戦闘機のものをそのまま使用、尾翼はダグラスSBD急降下爆撃機のもの、降着装置はヴォ―トF4U戦闘機のものの借用というよくいえば合理的、悪くいえば手抜きの設計であった。 このようなものをアメリカ陸軍が承認し2機の発注に至ったのはGMの政治工作の力といえよう。  試作機は契約に対し7か月遅れの1943年11月に完成したが、重量は6トンに達し、運動性は悪く速度も設計値にはほど遠かった。 改良型が1944年に誕生したがやはり性能が不満足でその年のうちにキャンセルされてしまった。 GMは470万ドルの請求書を軍に送り付けた。 結局GMとしては900万ドルの損失であったが、それでも最大の目標であったB-29の生産から逃げることは達せられたのである。    

 
性能諸元(XP-75)

形式:単座長距離戦闘機   エンジン:アリソン V3420-19液冷24気筒2,835馬力   最大速度:693km/時(高度 6,096m)   巡航速度:502km/時   航続距離:3,280km   海面上昇率 1,280m/分   上昇限度:12,039m   自重:5,219kg   全備重量:6,268kg   全幅:15.4m   全長:12.32m   武装:12.7mm 機関銃10挺、250kg爆弾1発   生産台数:6 

参考文献

William Green “War Plane of The Second World War Vol.4” Doubleday & Company, 1960
Chris Bishop ed.“The Complete Encyclopedia of Weapons of World War 2”, Prospero Books, 1998
F.G. Swanborough “United States Military Aircraft since 1909” Putnam 1963
Bill Yenne ”The World`s Worst Aircraft" JG Press
“Jane’s All the World’s Aircraft 1945” Collector’s Edition