1935年12月17日、ライト兄弟が世界で始めての動力飛行に成功したときからちょうど32年後、ダグラス社の新型の双発旅客機(DST)が初飛行した。 ライト兄弟のときと同じくあまり世間の注目をひかなかったが、このDSTはその後の航空機史上に一大転換をもたらしたのである。 本機は旅客機としてはDC-3、軍用輸送機としてはC-47の型式名で知られ、世界の航空輸送は本機の登場によって一大飛躍を遂げることになったのである。
このダグラス社でもっとも有名を馳せた航空機の開発は1934年、アメリカン航空からの要求で始められた。 当時アメリカン航空は大陸横断の寝台を備えた旅客サービスを始めようとしていた。 しかし北部ルートはTWA社におさえられており、アメリカン航空は距離の長い南部ルートを取らざるをえなかった。 また当時使用していたカーチス社製のコンドル機はTWA社が使っていたダグラスDC-2よりスピードが遅く、アメリカン航空ははなはだしく不利な立場に置かれていたのである。 アメリカン航空の要求に応じてダグラス社は従来のDC-2を大型化し、より強力なエンジンを搭載した新機種を計画したが、巨額の開発費を要することであり、ダグラス社社長のドナルド.ダグラスはアメリカン航空の財政事情を心配して実際の開発に踏み切ることには難色を示していた。 結局両方の社長同士の2時間に渡る電話会談でアメリカン航空は20機を発注するという約束を取り付け、設計が始まったのである。 社長同士の口頭の約束だけで巨額のビジネスが成立した古き良き時代の話であった。 初飛行は1935年12月、10の寝台を備えた夜間飛行機(DST)として行われた。 寝台無しの昼間飛行用は28人の乗客を乗せることができた。 従来はニューヨーク、ロサンゼルス間の飛行は途中で飛行機を2回乗り換え、15のストップを経て25時間55分の時間を要したのがDC-3の投入で途中の乗り換えなし、3回のストップだけで17時間30分に短縮された。 他の航空会社もつぎつぎとDC-3を採用し、1941年までにはアメリカの航空会社が保有する322機の旅客機のうち260機がDC-3で占められる有様であった。 海外でもオランダのKLMを始めエアフランス、ベルギーのサベナ航空、ルーマニア航空などが争ってDC-3を導入した。 DC-3を採用した航空会社はその信頼性と安全性を享受しただけでなく、旅客輸送部門だけで収益を黒字にするという画期的なことが起こった。 従来は旅客輸送部門の赤字を郵便物輸送などで埋めるのがふつうであったのである。 また航空機旅客輸送が爆発的に増え、1935年にくらべ1941年にはアメリカの旅客輸送は5倍以上になった。
第二次大戦が始まるとDC-3の軍用輸送機型がC-47として作られ、兵員輸送、空挺部隊の輸送など大戦全期を通じてあらゆる戦線で使われた。 イギリスにも武器貸与法によって1200機以上が送られダコタという名称で輸送機の中核となって活躍した。 1938年には日本海軍が三井物産KKのかげに隠れてライセンス生産契約を取得し、昭和飛行機と中島飛行機が500機近くを生産し零式輸送機として輸送部隊の中核となった。 ソ連でもライセンス契約を取得し1940年から終戦に至るまで3500機が作られた。 またソ連には武器貸与法に基づき707機のC-47が送られている。 このほかにも世界中85の国で使われ、まさにこの時代の輸送機の中心的存在となったのである。
形式: 輸送機 エンジン:プラットアンドホイットニー R-1820-53 空冷1,000馬力 最大速度:368km/時(高度 2,290m) 巡航速度 296km/時 航続距離:2,400km 海面上昇率 345m/分 上昇限度:7,076m 自重:7,705kg 全備重量:11,805kg 全幅:28.9m 全長:19.63m 生産台数:10,349
Elke C. Weal “Combat Aircraft of World War Two”, Arms and Armour Press, London 1977
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Chris Bishop ed.“The Complete Encyclopedia of Weapons of World War 2”, Prospero Books, 1998
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Gordon Swanborough “United States navy Aircraft since 1911” Naval Institute Press 1968
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Rene Francillon “McDonnell Douglas Aircraft since 1920” Putnam Aeronautical Books 1979
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Bill Gunston “Aircraft of the Soviet Union”
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