グラマン F6F ヘルキャット 

画像をクリックして拡大

モデルは MATCHBOX製 1/72

太平洋戦争が始まって日本の零戦と対戦したアメリカ海軍のパイロットは大変なショックを受けた。 それまで日本の航空界といえば時代遅れの欧米の機を模倣したものしか作れないと信じていたのが、自分達の持つアメリカ海軍の最新鋭戦闘機グラマンF4Fワイルドキャットよりも速度、運動性、上昇力の点で決定的に勝っていたのである。   グラマン社ではF4Fが量産を開始すると同時に後継機のF6Fの開発をスタートさせていた。 これはエンジンを一回り大きい1,600馬力のライト R-2600サイクロンを搭載することになっていた。 グラマン社の社長ルロイ.グラマンは珊瑚海開戦が終わってパールハーバーに帰投した海軍の戦闘機パイロットの主だった者と会見し戦闘機に対する要求事項を検討した。 パイロット達は零戦に対抗するには速度、上昇力を格段に改善することを要望したが、同時に機体の頑丈さと防弾設備を犠牲にしてはならないことを力説したのである。 グラマン社長はこれらの要求を満たすためにはエンジンをもっと大馬力のものにするしかないと考え、当時試作が進んでいた機体に2,000馬力のプラットアンドホイットニー R-2800ダブル.ワスプエンジンを搭載、その年の6月末に早くも初飛行させている。  量産型のF6F-3は10月に飛行するというスピードぶりであた。 量産型は12.7mm機関銃6挺を搭載、1銃当たりの弾量もF4Fの240発にくらべ400発とずっと多くしかも高度5,150mで時速608kmを出した。 量産型は試作機と微細な点で異なっただけであった。 この点でアリューシャンで捕獲された零戦を分析した結果がF6Fの設計に大きな影響を与えたとする議論は誤りである。 零戦が分析されている頃にはF6Fはすでに完成していたのである。  F6Fが前線に登場したのは1943年8月のマーカス島攻撃のときである。 このとき以降急速にF4Fを置き換え、終戦に至るまでアメリカ海軍の主力戦闘機としての地位を確立した。 グラマン社の生産スピードには目を見張るものがあった。 2年間の間に11,000機のF6Fを生産、生産台数合計は12,271機に達した。 F6Fは登場以来圧倒的な力をふるい、アメリカ海軍機が撃墜した6,470機の日本機のうちF6Fによるものは実に4,947機に達した。 グラマン社のモットーは機体が全部壊れてもパイロットは生き残ることであり、頑丈そのものの機体に当時のどの戦闘機よりも厳重な防弾設備が施されており零戦の持つ7.7mm機関銃ではほとんど効果がなかったのである。 とはいえ零戦に対する圧倒的なスコアも多少は割り引きして考える必要があろう。 日本海軍の歴戦のパイロットの大半はミッドウェーからガダルカナルの消耗戦であらかた戦死してしまっており、F6Fが登場した1943年8月の時点では日本機のほとんどのパイロットは未熟な若いパイロットであったからである。  F6Fはまた1,182機がイギリスに供与され満足な艦上戦闘機を持たなかったイギリス海軍の戦闘機隊の中核をなした。

 
性能諸元(F6F-5)

形式: 艦上戦闘機   エンジン:プラットアンドホイットニー R-2800 1OW空冷2,000馬力   最大速度:611km/時(高度 7,132m)  巡航速度 270km/時   航続距離:1,520km   海面上昇率 908m/分   上昇限度:11,369m   自重:4,190kg   全備重量:6,991kg   全幅:13.05m   全長:10.23m   武装:12.7mm 機関銃6挺   生産台数:12,275

参考文献

Elke C. Weal “Combat Aircraft of World War Two”, Arms and Armour Press, London 1977
William Green “War Plane of The Second World War Vol.4” Doubleday & Company, 1960
Enzo Angelucci & Paolo Matricardi “World War 2 Airplanes”, Rand McNally, Chicago 1978
Bill Gunston “Fighting Aircraft of World War 2”, Prentice Hall Press 1988
Bernard Fitzsimons ed. “The Illustrated Encyclopedia of 20th Century-Weapons and Warfare”
Chris Bishop ed.“The Complete Encyclopedia of Weapons of World War 2”, Prospero Books, 1998
“Jane’s Fighting Aircraft of World War 2”, Bracken Books, London 1989
Jeffrey L. Ethell “The Great Book of World War 2 Airplanes”, Crescent Books, New York 1996
Christy Campbell “Air War Pacific”, The Hamlyn Publishing Group Ltd., 1991
Alfred Price “Fighter Aircraft” Arms and Armour Press, London 1989
木村秀政 “世界の軍用機ー第二次世界大戦編” 平凡社カラー新書
Gordon Swanborough “United States navy Aircraft since 1911” Naval Institute Press 1968
W. Green & G. Swanborough “U.S. Navy Marine Corps Fighters World War 2 Fact Files”
鈴木五郎 “グラマン戦闘機” サンケイ出版 第二次大戦ブックス