1933年12月に初飛行したポリカルポフ I-16は当時西欧からはなんらの注目をはらわれなかったけれども航空機史上画期的な意味合いを持つ戦闘機であった。 世界で初の低翼単葉戦闘機であり、世界で初めて引っ込み脚を採用した戦闘機であった。 また世界は依然として第一次大戦以来の運動性重視のドッグファイト戦闘機に固執していたのに対し、I-16は高速での一撃離脱戦法の新しい時代を切り開いたのである。 事実デビューした当時は世界のどの戦闘機よりも速度が100km/時以上も速かった。 一時はI-16はアメリカのボーイングP-26戦闘機の影響を受けているともいわれたが、これは当たっていない。 P-26が世に出たときはI-16のテストはすでに始まっていたのである。
将来は低翼単葉機の時代だと確信していた設計者の二コライ.N.ポリカルポフはオーソドックスな複葉戦闘機I-15を設計する一方ではこの新しいアイデアに取り組んでいた。 そして1933年12月、新戦闘機が初飛行したのである。 構造は木金混合でエンジンは当初はのノ-ム.ローヌのジュピターエンジンのライセンス生産版のM-22(480馬力)、武装は7.62mm機関銃2挺、引っ込み脚は手動であった。 試作2号機はアメリカのライト.サイクロン SR-1820-F3 をライセンス生産したM25エンジン(715馬力)を搭載、テスト中に時速440kmを達成した。 これが量産型となりI-16 1型として前線への配備は1934年後半から始まった。 その初期型の一機が政治的亡命を図った一人のモンゴル人パイロットによって、1940年に満州に着陸、機体は日本軍の手に入った。 このときテストした日本陸軍の山本少佐はI-16は重心のバランスが悪く著しく操縦がしにくいこと、手動式の引っ込み脚の操作が非常に困難であることなどを指摘している。 ソ連政府は1936年スペインにおける内乱が起った機を逃さず、実地テストのため合計475機にものぼるI-16をスペインの共和国軍に送り込んだ。 素晴らしい上昇力、急降下速度とあいまって毎分1,800発にもおよぶ高発射速度の機関銃は相手を驚愕させるに十分であった。 共和国軍ではI-16をモスカ(はえの意)と呼び、相手のフランコ軍ではラタ(ねずみ)と呼んだ。 スペインでは1952年まで使われている。 1937年、I-16は中国、満州の上空に姿を現し、日本機と戦った。 ロシアのボランテイアーパイロットが操縦するI-16は運動性に優る日本海軍の九六式艦上戦闘機に対し優れた水平速度と急降下速度で対抗し、互角に渡り合ったと記録されている。 またI-16が世界に先駆けて装着していた操縦席の後ろの9mmの防弾板が威力を発揮した。 後年ノモンハン事変のとき、捕獲したI-16を調べた日本のパイロットが、I-16に防弾板がついているのを見てびっくりしたという話しが伝わっている。
I-16の改良型がつぎつぎに登場したが、そのひとつ17型は胴体の7.62mmShKAS機関銃2挺に加えて両翼に20mm ShVAK機関砲を装備し、1938年から登場した。 17型は疑いなく当時の世界の戦闘機の中でもっとも強力な武装を持っていた。 火力(3秒間に発射する弾丸重量)はドイツのメッサ-シュミットBf-109Eの2倍以上、スピットファイア1型の実に3倍であった。 大量生産された戦闘機で20mm機関砲を装備したのはこのI-16が世界で初めてである。 日本の零戦が戦闘機として20mm砲を初めて搭載したという意見もあるが、実際はこのI-16の方が2年も早い。 I-16の生産は1940年夏に終わったが、1941年、ドイツの侵攻が始まったときソ連の戦闘機隊の主力はこのI-16であった。 さすがに旧式化は覆いがたくソ連パイロットの英雄的な活躍もむなしく、メッサーシュミットBF109Eには歯が立たず数日にしてせん滅されてしまった。
形式: 戦闘機 エンジン:シュべチョフ M-62 空冷 1,000馬力 武装:7.62mmShKAS機関銃2挺(携行弾数各銃450発)、20mmShVAK機関砲2門 (携行弾数各銃90発) 最大速度:525km/時(海面 ) 巡航速度:298km/時 上昇限度:9,000m 航続距離:700km 自重:1,475kg 全備重量:2,050kg 全幅:9.00m 全長:6.13m 生産台数:8,643
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