ニキーチン IS-1

画像をクリックして拡大

モデルは AMODEL製 1/72

 おそらく航空機の歴史のなかでもっとも奇抜なもののひとつであろう。 なにしろ”引っ込み脚”ならぬ”引っ込み翼”なのである。 離着陸するときには複葉機であって、空中にあがると下側の翼が車輪もろとも胴体の両側と上翼の下部に折れ曲がって引き込まれてしまうという複雑な機構であった。  1930年代に入り航空機のスピードが飛躍的に向上していくなかで、必然的に起こる翼面荷重の増加とそれに伴う着陸速度の増加を懸念する声があった。 ある設計者は揚力向上のためのフラップを考案し、あるものは単に滑走路の延長で対応できるとした。 その中で飛行中に主翼を動かして揚力を調節しようというラジカルな解決法を考えたものもいた。  これらのひとつがIS-1戦闘機である。 考え出したのは設計者のワシリ.V.ニキーチンのテストパイロットであり技術者でもあったウラジミール.V.シェフチェンコという人物であった。 飛行中は複葉機の下側の翼を折り曲げて胴体側面と上部主翼の下部に引き込んでしまい、単葉機になって空気抵抗を減らそうというアイデアである。  設計が始まったのは1939年。 このころは世界の大勢が単葉機に移っているころである。 風洞実験の結果、飛行中に下翼を引き込むことは可能であることが分かりこの線で開発が進められた。 構造は木金混合でエンジンはシュベトフM-63空冷9気筒(900馬力)、武装は7.62mmShKAS機関銃4挺である。 初飛行は1940年11月。 その翌年にはエンジンをより強力にしたものが飛行したがこの発想は明らかな失敗であった。 複雑なメカニズムのために複葉機としては重すぎ、単葉機としては戦闘機としてもっとも重要なもののひとつである前方視界が悪かったのである。 エンジンをさらに強力な液冷式M-120(1,650馬力)に替えることも検討されたがエンジンそのものの開発がうまくいかなかった。  1940年はソ連が高性能戦闘機をもっとも強く必要としている時期ではあったがIS-1がその期待に応えるものではないことは明らかであった。 鮮明な写真もないため下側の翼がどういう風に引き込まれるのかよく分からないところが残念である。  

 
性能諸元(IS-1)

形式: 戦闘機  エンジン:M-100A 液冷 860馬力   武装:7.62mm ShKAS機関銃4挺   最大速度:453km/時(高度4,900m)  巡航速度 395km/時   上昇時間:8.5分(高度5,000mまで)   全備重量:2,300kg   全幅:8.60m   全長:6.7m   生産台数: 2

参考文献

Bernard Fitzsimons ed. “The Illustrated Encyclopedia of 20th Century-Weapons and Warfare Vol.13”
Yefim Gordon“Soviet X-Planes”Mortaerbooks International 1992
Gunston,Bill "Aircraft of the Soviet Union"